不思議おじさん特製ポップコーン
映画のお供と言えば?という質問に対して
ポップコーンと答える人が世界に何人いるのだろうか。
僕もそう答える一人だ。
今の家に住みだしてから毎晩のようにポップコーンを食べている。
もともと映画を見るのが大好きな僕は暇さえあれば映画を見る。
それを不思議なおじさんに伝えると
『うちにはたくさんポップコーンあるよ』
と笑顔で言ってくれた。
不思議なおじさんとは僕が寝泊まりしている建物の隣の家に住んでいるおじさんのことである。
ホストマザーと結婚しているわけでも付き合っているわけでもないが、毎晩夕食を共にし、洗濯物や光熱費の支払いなども共にしているなんとも不思議な関係だ。
未だに関係性がよくわからないため不思議なおじさんと呼んでいる。
そのおじさんからポップコーンがあるという情報を得た僕はその日の夜がたまらなく楽しみだった。
そしてその夜渡されたのは完成前のポップコーンだった。あの種的なやつ。
自分で作るけいかーい。と少しめんどくさい気持ちがあったが、おじさんが作ってくれるというのでテンションは再び上がった。
鍋をしなやかに振り、慣れた手つきで作ってくれた。
まるで、
『お前らが弾けるのはわかっているさあ抵抗せずにさっさと弾けな』
と言い出しそうな顔で作っていた。
やがてぽこぽこ言い出し弾けだした。
一つ弾けてしまえばもう完全にこちらのもの。
どんどん弾けていく。
ふたを開けるといつも見ているポップコーンの姿がそこにはあった。
ドヤ顔でほらよっと渡された。
これくらいなら俺でも作れるな。それが感想だった。
映画を見ながらペロッと全て平らげその日以来すっかりはまってしまった。
次の日、自分で作ろうと試みた。
昨日見ていた通りにシャカシャカ振りながら弾けるのを待った。
そして弾けだしたのだが、なんか昨日とは勢いが違う。
ゆっくりゆっくり弾ける感じで時間が経ってもなかなか全部弾けきらない。
なんでやねーんと思っていたときに不思議おじさんが現れた。
『振りが足りないよ』
と彼は言った。
そして彼は鍋の取っ手も掴み昨日同様慣れた手つきで鍋を振り出した。
その姿はまるで、ハウルの動く城でハウルが朝食を作っている姿のようだった。
あっという間にすべてはじけさせると彼は去っていった。
今まで生きてきた中でポップコーンを爽やかにカッコつけながら作る人など見たことなかったが、かっこいいと思った。
次の日も再び作ったがどうもうまくいかない。
何故なのだろうか。
一週間ほど経ったある日答えが見つかった。
ポップコーンの賞味期限が1年半前に過ぎていた。
それによって弾けにくくなっていたらしい。
それを毎日のように食べていたことに驚いたがそれでも動じず成功させてきた不思議おじさんをすごいなと思った。
彼はポップコーンのプロと呼べるだろう。
成功しても賞味期限が切れていても一切動じないあの姿はプロと呼べるだろう。
僕は調子に乗ってしまった。
毎晩毎晩のように彼にポップコーンを作ってもらった。
彼も優しいので毎日作ってくれた。
そして昨日彼があるものを買ってきた。
ポップコーンマシン。
それを見た瞬間僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
彼に無理をさせてしまったに違いない。
実際は毎日毎日作らされてうんざりだったのだろう。
彼もなかなかポップコーンを食していたがときには彼が食べないのに彼が作ったりしているときもあった。
謝罪の気持ちを込めて、マシンでポップコーンを作り彼にプレゼントした。
彼はありがとうと言った。
なんて優しい人なんだ。
彼はポップコーンをこよなく愛す素晴らしい人間だ。
ポップコーン以外の面でも彼と深く関わってみたいと思った。